年金天引き/不手際が招く高齢者の困惑

 75歳以上の高齢者全員が加入する「後期高齢者医療制度」が出だしからつまずいている。新保険証が届かなかったり、対象外の人から誤って徴収するなどの混乱が本県など全国で相次いでいるからだ。

 新制度は高齢者の新たな負担を必要とするだけに、スタートに当たっては被保険者の理解と納得が欠かせないはずだ。ところが制度への周知不足という不手際のため、高齢者の間には「分かりにくい」という戸惑いや、年金からの天引きに対する怒りまでが広がっている。高齢者にとって年金は命綱にも等しい。介護保険料も引かれている。さらに負担となれば不安になったり困惑するのも当然のことだ。

 福田康夫首相はスタート時の混乱について「早く十分な説明をしなかったことはまずかった。反省している」と陳謝した。一方で野党側は「姥捨(うばすて)山よりひどい制度だ」などと反発を強め、制度の廃止法案を提出している。

 高齢者の理解が得られないのでは、制度そのものが空回りしよう。県内で運用に当たる県後期高齢者医療広域連合や徴収を行う市町村は、制度の仕組みをはじめ保険料の計算法などを粘り強く説明し、不安や疑問の解消に努めなければならない。

 新制度の財源は公費(税金)が5割で、4割が現役世代からの支援金。加入者は1割を担う。本県の対象は約26万6000人。各人が保険料を負担し、本県の月額平均は4600円程度。原則、年金からの天引きで、15日から始まった。

 加入者に混乱が起きているのは、周知や説明も含め準備不足のせいだ。新制度導入は2年前の医療制度改革で決まっていたが、周知を地方自治体任せにしていた厚生労働省の対応にも責任がある。

 一方の自治体や地方の後期高齢者医療広域連合では制度の準備に追われた。肝心の保険料率が決まったのは昨年の11月。本県でもここから加入者の算定に入り、市町村を通して対象者全員に3月末までに新保険証を送付。この後を追って今月10日ごろまでに天引きの開始と徴収額が通知された。

 この間、説明会開催や広報誌で周知した市町村もあったが、新制度の複雑さや突然の新保険証送付に戸惑った人の方が多かったようだ。高齢者の立場よりも、徴収する側の都合を優先させたと言わざるを得ない。

 さらに新保険証が届かなかったり、保険料負担が先送りされた会社員の子どもの扶養家族から徴収した下郷町のような問題が全国で相次ぎ、混乱に拍車をかけている。

 新制度で医療の内容が悪くなるのでは困る。重ねていうが、不都合な部分が出てきたら、いつでも見直す姿勢が必要だ。医療費増の責任を高齢者に押しつけてはならない。

http://www.minyu-net.com/shasetsu/syasetu/080417s.html

そして、医療者側からはこんな情報も・・・

後期高齢者医療制度に各地で反旗」
http://www.asyura2.com/08/iryo02/msg/101.html

がんになっても、あわてない から転載
http://air.ap.teacup.com/awatenai/650.html
 
 各地で「保険証が届かない」「負担が増える」など反対意見が急増している後期高齢者医療制度だが、制度の核である「後期高齢者診療料」の届け出を安易におこなわないように注意を促す動きも活発化している。

記事は次のとおり。

後期高齢者診療料 地域医師会で届け出拒否の動き 茨城県医は会員に出来高払いでの算定求める
記事:Japan Medicine
提供:じほう
【2008年4月7日】

 後期高齢者の外来での継続的な医学管理を評価する「後期高齢者診療料」の届け出を行わないよう推進する動きが、都道府県医師会や郡市医師会などで出始めている。茨城県医師会では、後期高齢者診療料の施設基準の届け出を行わず、出来高払いで算定するよう求める文書を会員あてに送付した。原中勝征会長は本紙の取材に対し、「75歳を境に医療を区別するのは、命の差別ではないか。制度自体の撤廃を求める運動を展開するが、とりあえず後期高齢者診療料を届け出ないよう呼び掛けたい」と述べた。

 同診療料は、糖尿病などの慢性疾患を「主病」とする後期高齢者に対して、診療計画書に基づいて継続的な外来医療を提供した場合に評価する包括点数。月1回の算定で600点となっている。厚生労働省は、1人の後期高齢者について主病は1つであり、原則として1人の患者を1つの医療機関が診るとしているが、日本医師会は同診療料が登録医制度につながると警戒している。

 茨城県医が会員あてに送付した文書では、<1>「1患者につき1医療機関」の算定は実態に合わないものであり、断固反対する<2>後期高齢者診療料の届け出を行わず、出来高払いで算定する<3>後期高齢者診療料の届け出条件である研修会の開催について、茨城県医では行わない-の3点を挙げた。このほか茨城県医は、後期高齢者医療制度自体に反対するポスターを作製して会員に配布。患者に対する署名活動も開始した。

  原中会長は「関東甲信越医師会連合会の各会長にもこうした動きに賛同してもらえるよう話し合いを進めたい」と話した。

  茨城県医と同様の動きは山形県医も始めており、同診療料の届け出を行わず出来高算定とするよう会員に呼び掛けている。これ以外に郡市区医師会レベルでも、同様の動きが広まりつつある。

日医執行部、慎重に検討

 この問題は2日の日医定例代議員会でも取り上げられ、難波俊司代議員が「後期高齢者医療制度長寿医療制度と呼称するというが、何が長寿だと言いたい。むしろ命を縮める制度だ。日医は後期高齢者医療制度をつぶしにいく覚悟はあるのか」と問いただした。これに対し竹嶋康弘副会長は「即座には答えられないが、かつて武見太郎会長は高齢者医療制度はうば捨て山になると言われた。そうならないようにする必要がある。執行部で十分に検討したい」と述べるにとどめた。
(記事ここまで)


 後期高齢者診療料を採用するか、これまで通りの出来高制で行くかは、医師と患者さんが相談して決めることになっている。後期高齢者診療料を採用する場合には届け出ると、1カ月6000円の定額制になる。新聞では「何回受診しても定額」などと頻回受診をあおる書き方をするところもあったが、何回受診しても医療機関は収入が増えないので、できるだけ月1回の受診にして欲しいと言われる患者さんが多くなると思う。

 ちなみに、3月12日に書いた「睡眠剤・医療用麻薬が30日処方可能に」も、 14日分までしか処方できない薬があると月2回受診が必要なため、後期高齢者診療料を採用しない患者を増やさないための措置ではないかと睨んでいる。そうでなければあれだけ口を酸っぱくして14日に制限していたものを、取って付けたような理由で30日処方可能にした説明がつかない。http://air.ap.teacup.com/awatenai/606.html

 後期高齢者医療制度で一番問題なのは、一人の患者さんに対して主病は一つ、後期高齢者診療料を採用できる医療機関も一つという部分である。これまで内科と眼科と整形外科の3か所の診療所に通っていた人がいるとする。この中で後期高齢者診療料を届け出られるのは1つだけである。

 そして、届け出た診療所には後期高齢者診療料の月6000円が入るが、残りの2つの診療所は診療報酬の請求ができなくなるらしいといわれている。この問題は各地で質問が出されているが、「算定できます」という回答を、まだ見たことがない。これは診療所に限らず、200床未満の病院も同様に算定できなくなるらしい。これが本当なら、明らかに高齢者の「医療を受ける権利」を侵害しており、制度自体が憲法違反である。

 200床以上の病院では関係ないが、関係ないとなったらなったで、診療所と200床以上の病院を受診する患者さんが増えるのではないか。また、診療所を敬遠して全部病院にかかろうという人も増えるかもしれない。今回の診療報酬改定は「勤務医の負担軽減」を重要課題としていたはずだが、病院の受診を減らして勤務医の負担を軽くしようという目標とは相反するのではないか。

 今のところ、出来高制のままで行くか、後期高齢者診療料を採用するかは、患者さんと医師で相談して選ぶことになっている。「自分で選んだんだから文句を言うな」ということなんだろうが、メリット(ほとんどないが)は説明してデメリットは説明していないのだから、文句を言ってもいいはずだ。厚生労働省憲法より優位に立っているなど、思い上がりも甚だしい。


 診療所の先生方にお願いがあります。ほとんど医療を必要としない人からも月6000円もらえることに目がくらんで、結局その人たちが途方に暮れるような「後期高齢者診療料の届け出」を安易におこなわないようにしてください。その裏側にある国の企みがどれだけ高齢者を人として扱わない思想に基づくものかを考えて、この制度そのものを撤回させるべきだと私は考えます。


投稿者: hirakata

こんなことを踏まえつつ、李啓充先生のコラムをお読み下さい(かなり長いですが)。

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