日歯連盟広報第43号 平成20年3月15日 より

マイナスシーリング打破が連盟活動の大きなテーマに

揺れ動く政局を注視一層の活動推進を

今回の改定作業の中で大きく立ちはだかったのは、政府予算全体の中で社会保障費全般に網をかけられた2,200億円のマイナスシーリングであった。
非常に厳しい環境ながらプラス改定は勝ち取ることはできたが、会員の医療環境を大幅に改善するまでには難しい改定率の結果となったその原因は、参議院選挙直後に既に決まっていたこのマイナスシーリングを打破することができなかったことにある。
今回この2,200億円を厚労省が融通した内容は、後発薬品の利用促進を含めた薬価差額と、政管健保の国庫補助金の健保組合などの肩代わりで数字を合わせることとなった。
しかし、この健保組合などの肩代わりはあくまでも単年度としての合意であり、診療報酬改定が予定されていない21年度政府予算編成においても、日歯連盟としてもその対応を迫られる課題として残っている。
それと共に、舛添要一厚労大臣、石井みどり参議院議員も明言しているように、この2,200億円削減のシーリングをかけることはもはや限界であり、これを外さなければ、適切な社会保障、医療、そして歯科医療を確保することは不可能であることはその関係者の一致した意見である。
しかしながら、一方では、あたかも社会保障費、医療費が財政再建を阻害する張本人のような論理を展開し、財政再建優先を主張する勢力も与野党入り混じって存在する。
これは改定作業が単に厚労関係だけの対応だけでなく、政界全般にウイングを拡げる必要を物語っている。
また、日歯連盟の20年度の活動課題である、混合診療の取り扱い、レセプトオンライン化への対応も、行き着くところは財政再建派との攻防が待ち受け、大局的には、現在衆参両院でねじれ現象となっている政局の大きな論点として浮上する可能性が強い。
それに加え、円高、株安という日本経済の先行きに不安が漂い始め、また、日銀総裁の空白、暫定税率延長という政局に大きな不安材料が覆いかぶさって、日本の政治が大きな転換期としての局面も迎えている。
今後は、この揺れ動く政局を絶えず注視しながら大きな視野に立って、このシーリング問題を中心に、石井選挙、今回の改定作業の中で培ったパイプを更に拡大する中で活動を推進する計画である。

時局対策委員会
医療制度問題対応チーム
副委員長 鞍立 常行


コラム

ソクラテスは“生きることでなく、よく生きることこそ、何よりも大切にしなければならない”という。
この言葉はあらゆる職種で何をなすべきかを考えさせる。
われわれ医療職にとっては、社会保障の中での生命の安全保障ともいうべき医療の充実がそれに相当する。
増大し続ける社会保障関連費を将来を見据えた明確な制度設計のもとで、合理化により削減することはやむを得ないにしても、財政健全化のみを目標とした社会保障費の削減では、これが仮に達成されたとした時には日本人の大半はもう困窮から這い上がれない病人と化しているのではないだろうか。
このような閉塞感からの脱却のキーポイントとなるのは、何といっても政治の方向性の明示と経済の好転であろう。経済が好転しなければ国民所得は増えず、当然のごとく税収の回復は期待できない。
ロシア、中国そしてインドなどの経済成長率は当面望めないにしても、ある程度の経済成長率が叶わないと国民への社会保障を担保するのは難しい。
さて先日、平成20年度の診療報酬改定率が微増で決定した。焼け石に水との酷評はあるものの、一応の評価と受けとめている。診療報酬改定率のアップは単に医療従事者のみに有利に働くのではなく、国民に良質な医療をより一層充実した形で提供するために利用されるのであるから、国民にとっても有利に働くものである。そうでなければ国民の反発は必至であろう。

国民にとって有利に働くはずの診療報酬改定が、実は、経済と連動しているという指摘がある。
慶応義塾大学・権丈善一教授は“診療報酬改定率と経済成長率の相関”について、次のようなことを述べている。

『医療費の将来見通しは、実は、その国の政策スタンスを表しているだけである。医療費の伸び率は「過去の医療費の伸び率」に基づいて推計されるが、それは「過去の国民所得の伸び率」に基づいて政治的に決められているのである。例えば、国民所得の伸びが鈍化しているときに医療費が増えると「これでは医療保険が破綻する」とメディアや研究者が情報発信する。それを受け、政府が“民主的手続き”にのっとりながら医療費抑制策を作る。逆の場合も同様。その結果、面白いことに、医療費の改定率は、同じ時期の経済成長率とは一致しないが、4〜5年前の経済成長率とは見事に相関する。この関係は、国際的にも確認されている。国民所得の伸びを過大に推計すれば、医療費も過大推計されるが、実際に国民所得が伸びなければ、医療費もしっかりと抑制されるわけで、事実上の「キャップ制」になっている』と。


私は権丈氏がいう診療報酬改定率と経済成長率の相関を1981年〜2006年の期間で検証してみたが、確かにかなりの高比率で相関していたが、今回の改定率と経済成長率の相関は大きく乖離している。
これは社会保障関連費のここ5年間かけての削減に影響されていることである。
次期改定もこの削減の網にかかるわけなので、再度厳しい現実が待ち受けているかも知れない。
国民のニーズの高まりに反して、診療内容の抑制が高まることを心配するのは無駄な心配であってほしいものである。

理事 富野  晃