噛むことからのヘルスプロモーション

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河邊清治博士生誕100年記念特別講演から

「噛むことからのヘルスプロモーション」

東京歯科大学名誉教授 奥田克爾氏

私は河邊臨床教室の酒井会長とは同級であり,今回の講演を頼まれた.これからの歯科はヘルスプロモーションをやっていかなければならない.
あるメーカーに依頼され,「オーラルヘルスと全身の健康」という冊子の製作に関わった.この冊子を見た日本医学会の会長が,「このような冊子こそ,歯科医師より医師が読まなければならない.医師は歯科医師と連携しながら,患者さんに対応していかなければならない」と述べていた.
河邊清治先生に学んだのは45年前である.研鑽をつむこと:Moving forwardが大切であり,色々なことをやりなさい,と言われ,私なりにやってきた.プロとしての自覚をもて,我々は神が創った臓器を再生させることができるのだ,と講義で教わった.

作家の遠藤周作が花と時計:「変るものと変らぬもの」,という随筆のなかで,

なぜ歯学だけ別扱い? 医学に素人の私だが,いささか腑におちないことがあるので,読者の方から教えを頂きたい.それは医学部のなかに歯学科がないことである.
歯科の勉強をするには大学の医学部ではできない.したがって医学部とは別の歯科の学校や大学にはいらねばならない.だから厳密にいうと歯科の先生は口と歯以外の臓器について治療もしくは診療する資格がない.
それを初めて教えられた時(ウカツにもわたしはこの区別をまったく知らなかった)びっくりしてしまった.
口といってもその範囲はひろい.歯もあれば歯ぐきもあるし,鼻とつながっている部分もある.

以上のように遠藤周作は書いている.

また,日経メディカルオンラインで「医師も歯科受診を勧めてみませんか」と内科医師の細田正則氏が語りかけている.

「私の専門は消化器内科ですが,内視鏡検査などで患者さんの口のなかを診ることが多いからでしょうか,以前から患者さんの口腔衛生について関心を持っています」
「内科疾患を鑑別する際に,口腔内をチェックすることで,ヒントを得られるというケースもあるわけです.また,歯周病に関連する炎症性サイトカインと糖尿病との関連,あるいまメタボリックシンドロームとの関連なども研究されています」

 以上が内科医師の見識である.

スケーラーは,いつ,だれがつくったのか?
二千数百年前に医学の父のヒポクラテスがつくった.ヒポクラテスは口のなかに病気があると健康が破綻することを知ったのである.当時は細菌学の知識はまったくなかった.しかし,歯石がたくさんあると病気になるので,歯石をスケーラーでとった.
80年前にプライスという歯科医師が,メイヨクリニックの医師たちと口の病気が全身の病気に関連するという研究をし,2,000ページにおよぶ膨大な本を書いた.その本を東京歯科大学に寄贈してくれた.
私は非常に恥ずかしい思いをした.80年前に贈られた本を最初に読んだのは私であり,最近のことである.これを知ったら河邊先生にどなられたと思う.内容を読めば読むほど,すごい本である.

歯周病で全身の色々な病気が起こると指摘している.口に病気があるとアレルギーが起きる.口の病気と皮膚病が関係する.80年前にメタボリックシンドロームとの関連も書いている.さらに免疫との関連も書いている.
口腔の疾患が,リウマチ,腎臓病などのも関わると指摘されている.現在,噛むことから脳刺激の意義やヘルスプロモーションなどが明らかになりだした.

歯垢とはいいたくない.垢(あか)ではなく細菌の塊である.この塊は複数の細菌群から構成されているバイオフィルムという細菌の塊である.細菌は集団となって層状になっているので抗菌剤では無力化(抵抗性になる)できない.機械的に取り除かなければならない.

アメリカは2080運動である.20歳での齲蝕ゼロを80%にという運動である.日本の8020推進運動は,健康な歯を残さなければ意味がない.歯は残っているが歯周病があれば,その内毒素が血流へ進入する.心内膜炎になるし,炎性が動脈硬化の形成に関わる.産科器官への歯周病細菌の直接感染もある.

唾液には抗菌作用はない.口腔ケアがインフルエンザの感染を抑える.歯磨きか? 健康破綻か? 予防と治療の重要性には,新たな政策が不可欠である.歯科医師会の役割,歯科大の役割がある.